推しが度重なる不祥事で脱退した話

 推しが脱退した。

度重なる不祥事で、グループ脱退と事務所を解雇という結果。

 私が応援していた地元ダンスボーカルユニット、まだデビューして半年もたっていない。知名度はとんでもなく低いし、フリーライブが主である。まさに地元密着型のグループだ。

推しは、ついこの間成人したばかりだった。

 ファンになった日はたった2か月前の10月10日だったと記憶している。ジャニに冷めかけ、距離の遠さにうんざりして二次元にハマっている時だった。もともと地方アイドルや地下アイドルに興味があった私にとって、そのイケメンユニットは理想だった。

前日も他のイベントに出演しており、たまたまそのパフォーマンスを観た親が私に勧めてくれたのだ。

沼に落ちる予感がした私は、さっそく隣の隣の市まで彼らを見に行った。

単純に言って、神だった。

語彙力も何もないが、想像よりずっとクオリティが高くあっという間の30分。私が最初から気になっていたメンバーこそ、脱退した推しだった。

あ、落ちたと確信した瞬間があった。ステージから彼らが客席に降りてきた時、ちゃっかり最前に陣取っていた私が手を伸ばすと、推しがハイタッチしてくれたのだった。

やけに冷たい手だったのも覚えている。

 あの時から私はすっかりヲタになってしまい、県内のイベントには無理やり時間の都合を付けて行った。先月は受験生のくせに隣県まで追っかけもした。

Twitterに欠かさずいいねとリプライを送り、顔を覚えてもらえるように必死だった。デビュー当時からのファンとの対応の差が悔しかった。たった数か月の差なのに。

 そして10月は過ぎた。11月下旬になってやっとイベントがあった。隣県のドンキの駐車場の隅っこ、本当に小さい所だった。だがその分距離はほぼないと言ってよく、終了後の物販でチェキを撮るにも狭かった。二回目のチェキで少し緊張していたが、一回目よりずっと近くてお話もでき、頭をぐしゃぐしゃと撫でてももらえた。

なにより、顔を覚えてもらっただろうことが幸せだった。

歌っている最中、他のファンが手を伸ばす中私だけにハイタッチしてもらえたことが幸せだった。

 その数日後に、推しの最後のライブ(となってしまった)路上ライブのイベント出演が急遽決まり私は例に漏れず電車に乗って飛んで行った。その日は物販はなく、短い時間だったがステージも仕切りもなくこれまた近かった。

当然最前を陣取って推しを見つめていた。視線に気づき照れ笑いした推しだったが、他のメンバーのように客の中に乱入することもなくいたって普通に歌って踊っていた。今回はあんまり対応良くなかった、でも高望みしすぎは良くないし期待しないでおこう、と思って推しを見つめるのに専念した。

最後、ハケる時に推しがわざわざ私の前に来てくれた。そしてにっこり笑って手を差し出してくれた。今度も、私だけにハイタッチしてくれたのだった。

それが、最後になるとは思っていなかった。

 そのライブの後から推しの生存確認がほぼ取れなくなった。毎日のようにたくさんつぶやいていたtwitterもほとんど浮上しなかった。最初はバイトや他のことで忙しいんだ、と気にしていなかったのだが、一週間以上経つとさすがに心配になってきた。

メンバーのあげるレッスン時の風景や自撮り、食事の写真に推しはいなかった。ラジオにも5人で出演した。

また5人ねはいはい、とかわしながらも悪い予感が止まらなかった。

 Xデーがやってきた。公式アカウントのbio欄、メンバーのアカウントが記載されているところから推しのアカウントの表記が消えた。

年明けのライブの出演者の欄に推しだけいなかった。まだ脱退の発表はなかったが、これだけでもう確実であった。せめて公式発表、そして理由やできるなら最後に会いたいとつづってメールを送った。返事は来なかったが、その次の日公式発表があった。

 

 それが冒頭の内容である。当然頭が真っ白になった。涙が止まらなかった。

自分が考えていた理由と違う。家庭事情でもメンバー間のいざこざでもない。

推しの不祥事。信じられなかった。しかも『度重なる』。本人のコメントもなく、短い文章で推しの脱退は片付けられていた。

推しがいないことになっていた。

 不祥事がどんな内容かは知らない。あんな書き方ならきっと重大なことで、警察沙汰やファンに手を出したとかそういうことなのだろうか。

私が見ていた推しの笑顔は、真面目すぎる長文ツイは、全部嘘だったんだろうか。信じられないが、紛れもなく現実なのだった。

夢が叶う途中とか言ってたのはどこの誰でしたっけ。本当に歌が好きで昔歌い手もやってた推し。まだまだだけど少しずつ人気も出てきたグル―プ。自分の将来への足掛かりを自分で失ってしまったことがたまらなく悲しい。

他のメンバーや事務所に迷惑をかけ、何も言うことなく去って行った推し。私が本当に大好きで、リア恋もしかけていた彼の本当の姿だったのだろうか。

 推しが本当に大好きだった。決してイケメンとは言えなかったけど、一番スタイルが良くておしゃれで歌がうまくて、いつも笑っていた可愛い推し。オラオラ系の男らしいメンバーの中で、原宿系の不思議キャラの推しは異彩を放っていた。彼がいることでグループに多様性が生まれていたと思う。

6人だったグループ、推しの居場所はもうない。ライブに行っても、歌い踊る推しはもう見ることはない。いなかったかのように扱われ、これからきっと推しのことを知る者の方が少なくなるのだろう。

 

 いつか、推しを東京ドームのステージに立たせたかった。私が嵐コンで見たような、ペンライトの海と満杯の観客の前で輝く推しを夢見ていた。

 昨日、その夢は推しと一緒にはかなく消えてしまった。